札幌地方裁判所 昭和62年(わ)1540号 判決 1988年3月29日
本店の所在地
札幌市東区伏古一〇条五丁目四番二二号
株式会社エムテイ土谷観光
代表者代表取締役 土谷正光
本籍
札幌市東区東苗穂五条一丁目五番地
住居
同区伏古一〇条五丁目四番二二号
土谷正光
昭和二四年六月二七日生
右両名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官工藤倫出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人株式会社エムテイ土谷観光を罰金八〇〇万円に、被告人土谷正光を懲役一〇月に処する。
被告人土谷正光に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人株式会社エムテイ土谷観光(以下「被告会社」という)は、肩書地(昭和五七年五月二三日以前は札幌市東区東苗穂町五三二番地)に本店を置き、同市中央区南八条西四丁目一〇番地札幌アートプラザホテル(同六一年一一月一七日以前はプレイボックス・ザ・アメリカン、同五八年一二月一九日以前は札幌パレスホテル)地下一階でホストクラブ「レディスキング」を経営する資本金二〇〇万円の株式会社、被告人土谷正光は、同社の代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人土谷正光は、被告会社の業務に関し、同社の法人税を免れようと企て、右「レディスキング」は同店の従業員らが経営するものであり、被告会社は同店の賃貸料を主たる収入とする旨仮装したうえで、同店の売上等を除外し、仕入等の経費も計上しないなどの方法により、その所得を秘匿したうえ、
第一 昭和五八年四月二八日、同市東区北一六条東四丁目二二八番三所在の所轄札幌北税務署において、同税務署長に対し、同五七年三月一日から同五八年二月二八日までの事業年度の所得金額が三五九六万三八〇六円であり、これに対する法人税額が一四一四万四四〇〇円であるにもかかわらず、所得金額が一六〇万七四二四円の欠損であり、納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限である同五八年四月三〇日を徒過させ、もって、不正の行為により同社の右事業年度の正規の法人税額とその申告税額との差額一四一四万四四〇〇円を免れ、
第二 昭和五九年四月一九日、前記札幌北税務署において、同税務署長に対し、同五八年三月一日から同五九年二月二九日までの事業年度の所得金額が二三四七万四〇八三円であり、これに対する法人税額が八八九万九〇〇〇円であるにもかかわらず、所得金額が三四万七七九四円であり、過事業年度分の欠損金の繰越控除をすると所得金額が零で納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限である同五九年五月一日を徒過させ、もって、不正の行為により同社の右事業年度の正規の法人税額とその申告税額との差額八八九万九〇〇〇円を免れ、
第三 昭和六〇年四月一八日、前記札幌北税務署において、同税務署長に対し、同五九年三月一日から同六〇年二月二八日までの事業年度の所得金額が二三八〇万一七三八円であり、これに対する法人税額が九三二万一八〇〇円であるにもかかわらず、所得金額が一一万七三八〇円であり、過事業年度分の欠損金の繰越控除をすると所得金額が零で納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限である同六〇年四月三〇日を徒過させ、もって、不正の行為により同社の右事業年度の正規の法人税額とその申告税額との差額九三二万一八〇〇円を免れ、
たものである。
(証拠の標目)
判示事実全部について
一 被告人土谷正光の当公判定における供述
一 被告人土谷正光の検察官に対する昭和六二年一一月二六日付、同年一二月一四日付各供述調書
一 被告人土谷正光外一名作成の上申書一三通
一 黒沢末広及び阿部豪の検察官に対する各供述調書
一 堀田政彦の大蔵事務官に対する質問てん末書
判示冒頭の事実について
一 被告人土谷正光の検察官に対する昭和六二年一一月一二日付供述調書
一 検察事務官岡崎宣規作成の電話通信書二通
一 登記官作成の商業登記簿謄本(四枚綴りのもの)
判示第一ないし第三の各事実について
一 大蔵事務官作成の「売上高調査書」、「賃貸料収入調査書」、「期首貯蔵品棚卸調査書」、「仕入調査書」、「期末貯蔵品棚卸調査書」、「ホスト報酬調査書」、「楽団報酬調査書」、「給料手当調査書」、「福利厚生費調査書」、「通信費調査書」、「交際接待費調査書」、「賃貸料調査書」、「修繕費調査書」、「租税公課調査書」、「税理士報酬調査書」、「広告宣伝費調査書」、「消耗品費調査書」、「車両費調査書」、「募集費調査書」、「保険料調査書」、「新聞図書費調査書」、「水道光熱費調査書」、「旅費交通費調査書」、「諸会費調査書」、「支払利息手数料調査書」、「雑費調査書」、「雑収入調査書」、「受取利息調査書」、「貸倒損失調査書」、「欠損金当期控除額調査書」、「欠損金額調査書」、「事業税認定損調査書」、「預金調査書」と題する各書面
一 検察事務官作成の報告書
一 検察事務官西岡英樹作成の電話通信書
判示第一の事実について
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(甲五九号)
判示第二の事実について
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(甲六〇号)
判示第三の事実について
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(甲六一号)
(法令の適用)
(1) 被告人土谷正光の判示各所為はしずれも法人税法一五九条一項に該当するので、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪なので、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役一〇月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。
(2) 被告人土谷正光の判示各所為は被告会社の業務に関してなされたものであるから、いずれも法人税法一六四条一項により被告会社に対し同法一五九条一項所定の罰金刑を科することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算した金額の範囲内で被告会社を罰金八〇〇万円に処することとする。
(3) 訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条により被告人両名に連帯して負担させることとする。
(量刑の理由)
本件は、ホストクラブを経営する被告会社の代表取締役である被告人土谷正光が、被告会社の業務に関し、判示のとおりの不正な方法によって、三年間にわたり法人税の支払をせず、合計三二〇〇万円余りの法人税を免れたという事案であるところ、そのほ脱税額は右のとおり高額で、脱税の手段・方法も、ホストクラブの経営を同店の従業員ないし別法人が行なっていたものであるように仮装したうえ、同店の売上等自体をも過少申告する等収入の大部分を除外していたものであって、態様が大胆かつ巧妙、悪質であることに加え、被告人土谷はこれまでにも不正な経理を行ない、昭和五六年、同五七年と税務調査を受け、申告漏れを指摘された直後から本件脱税行為に着手していることなどを併せ考慮すると、その刑事責任は軽視し難いものといわなければならない。
しかしながら、他面、被告人土谷は、本件を深く反省し、ほ税にかかる本税はもちろん延滞税、重加算税も既に全額納付済みであり、経理体制も改めており、被告人土谷には昭和四五年に業務上過失傷害罪により一回罰金刑に処せれた以外は前科もなく、また被告会社もこれまで刑罰を科せられたことはないこと、その他被告人土谷の稼動状況、被告会社の営業状況等被告人土谷及び被告人会社のために有利に斟酌すべき事情も認められるので、被告人両名に対し、主文掲記の刑に処したうえ、被告人土谷については、その執行を猶予することとする。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 若原正樹 裁判官 金子武志)